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コラム

Vol.1複合微生物製剤「オッペンハイマー・フォーミュラ™」を適用した沖縄の油汚染土壌浄化

沖縄の油汚染土壌

近年、沖縄では米軍基地の返還に伴い、油類等による土壌汚染が顕在化してきており、深刻な問題となっている。沖縄における油汚染対策は、石灰混合による処理が主流であるが、土壌の性状を変えてしまうということが問題視され始めた。その他に掘削除去という選択肢もあるが、沖縄に関しては、掘削した土壌の搬出先が限られており、島外へ搬出をした場合、莫大な費用がかかることとなる。そこで期待をされているのが、バイオレメディエーションである。しかし、沖縄には特有の土壌が広く分布しており、バイオレメディエーションの効果がどれくらいあるのか、適用可能なのか、関心を集めている。

バイオレメディエーションと複合微生物

バイオレメディエーションは、微生物が持つ汚染物質の分解能力を利用する技術である。
本技術は、多様な微生物を高濃度に含む複合微生物製剤「オッペンハイマー・フォーミュラTM」を汚染現場に適用する技術(バイオオーグメンテーション)で、確実に汚染物質を無害な有機物(最終的には水と二酸化炭素)に分解する。本製剤は、各地の自然環境から採取された複合微生物系(コンソーシア)で、それを構成する個々の微生物の相互作用(チームワーク)により、多様な汚染物質や環境にも対応することができる。

バイオレメディエーションと石灰混合

石灰混合は、汚染土壌に生石灰を混合し、その発熱反応により揮発性成分を分離・除去する方法である。バイオレメディエーションと石灰混合の特性について表1に示す。

表1 油含土壌浄化工法比較表

 石灰撹拌工法バイオレメディエーション
材料生石灰微生物製剤、栄養剤等
法規制「生石灰(酸化カルシウム含有量80%以上のもの)を500kg以上取り扱う(貯蔵する)場合最寄り消防署への届出義務」(危険物の規制に関する政令第1条の10)特になし。
人体への影響酸化カルシウムが人の肌に触れたり吸入すると水との高い反応性のため、ひりつきや炎症が生じる。吸引した場合呼吸困難になることもある。熱を放出して鼻中隔の穿孔や腹部の痛み、吐き気や嘔吐の症状がでることもある。特になし。
複合性微生物に関する、病原性・毒素産生確認試験結果、動物に対する影響、植物に対する影響、バイオアッセイによる生態毒性評価、バイオレメディエーションにおける微生物群集の動態解析、病原性細菌の有無について試験済。
設備テント・集塵機・活性炭吸着装置等特になし。
長所
  • 施工実績がある。
  • 改良土の転圧が確実に行えるので、建物用地への転用が容易となる。
  • 土壌の性状が変わらないため、農地への転用が可能である。
  • 高濃度の油含土壌についても改良効果が十分得られ、施工実績がある。
  • 施工中化学物質の拡散がなく、テントが不要。
  • 施工に伴う環境負荷が小さい。
  • 原位置浄化が可能である。
短所
  • 改良土は強アルカリとなるため、農地への転用は困難となる。また、強アルカリとなった場合、土に結合する重金属が溶出しやすくなる。
  • 地下水が発生する場合は、水替工の他、法面の安定を図る必要がある。
  • 施工時には、粉塵対策(テント設置)が必要である。テントを設置する場合、台風シーズンを避ける必要がある。
  • 高濃度の油含土壌については改良効果が得られず、高濃度・炭素数の多い油(重質油)の成分は残存する可能性がある。高濃度油含土壌は場外搬出(セメント原料化処理)として搬出処理している。
  • 微生物のもつ浄化作用によるものであり、分解速度は濃度や土質、気温等によって変化する。
評価

どちらの処理とも短所、長所はあるが、石灰混合は土壌の性状を変えてしまい、農地への転用は困難である。また粉塵被害も問題となるため、バイオレメディエーションへの期待が高まっている。

沖縄特有の土壌

沖縄の土壌は他都道府県の土壌と大きな違いがある。アルカリ性土壌、酸性土壌、粘性土壌など様々である。代表的な3種の土壌を以下表2に示す。

表2

種類特徴分布
国頭マージ強酸性の粘性土壌
赤~黄色
沖縄本島北部地域を中心に分布
島尻マージアルカリ性の琉球石灰岩が混ざる粘性土壌
赤褐色
透水性がよく、水はけも良い
沖縄本島中南部及び宮古島を中心に分布
ジャーガルアルカリ性の重粘性土壌
灰色~灰褐色
水はけが悪い反面、干ばつに強い
沖縄本島南部地域を中心に分布

記載のように沖縄土壌は特有であるため、現地の油汚染土壌を用いた試験、浄化実績の蓄積が必要である。

トリータビリティ試験(バイオ処理適合性試験)

弊社では沖縄の土壌を用いたトリータビリティ試験を行っている。今回は高濃度油汚染土(国頭マージ)、中濃度油汚染土(ジャーガル)を対象とした試験を紹介する。

 

試験方法

  1. 土壌試料を5mmの篩いにかけて均一化した。
  2. 1.より試験前(初期値)となる試料を採取、TPH分析用試料として第三者分析機関に送付し、弊社にて各測定※1)を行った。
  3. 1.より土壌1kgをステンレスバットに入れた。
  4. 必須元素水溶液及び栄養剤を水道水(脱塩素後)に溶解、3.の土壌に添加し、よく撹拌した。
  5. 複合微生物製剤を添加し、よく撹拌した。中濃度油汚染土を対象とする試験については、添加剤なしの系列を作製し、比較試験を行った。
  6. 毎日1回撹拌し、適宜水分を補給した(1日に1回、表面が湿る程度)。
  7. 各試験指定日に土壌性状の観察を行うとともに、試料を採取し、2.と同様の分析、測定を行った。高濃度油汚染土を対象とする試験については、開始後7日目、14日目に、中濃度油汚染土を対象とする試験については、開始後14日目、28日目、42日目、70日目に行った。

※1 測定項目は、全微生物数(直接顕微鏡法/EB蛍光染色法)、pH、窒素・リン、油臭・油膜等

 

試験結果(高濃度)

処理前後のTPH濃度分析結果と全微生物数を表3に、TPH濃度と全微生物数の推移を図1に示す。

表3

 初期値7日目14日目
TPH
(mg/kg-dry)
C6~C441300093006200
C6~C12<2408553
C12~C281300091006100
C28~C44<2407749
全微生物数(cells/g-wet)7.91E+073.48E+084.69E+08

図1

 

試験結果(中濃度)

処理前後のTPH濃度分析結果と全微生物数を表4に、TPH濃度と全微生物数の推移を図2に示す。

表4

 初期値14日目28日目42日目70日目
添加ありTPH
(mg/kg-dry)
C6~C447600590038001600780
C6~C12360190100100100
C12~C287300570037001600760
C28~C44100100100100100
全微生物数(cells/g-wet)5.81E+085.17E+093.53E+096.37E+096.51E+09
添加なしTPH
(mg/kg-dry)
C6~C4476006900600060005300
C6~C12360100100100100
C12~C2873006800590060005200
C28~C44100100100100100
全微生物数(cells/g-wet)5.81E+082.39E+081.69E+081.36E+081.16E+08

図2

 

判定

試験結果より、どちらの結果ともTPH濃度の減少と全微生物数の増加を確認、当該土壌の微生物に対する増殖阻害性はなく、土壌の種類、TPH濃度に関わらず複合微生物製剤による土壌の油分浄化は十分可能である。