ナホトカ号の重油流出事故の浄化に貢献

日本海でタンカー沈没による重油流出事故が発生

1997年1月、ロシアのタンカー「ナホトカ号」が、隠岐諸島の北北東100km程度の日本海で船体が折れるという事故が発生。コントロールを失ったナホトカ号は、漂流後沈没し、大量の重油が流出しました。

冬の日本海は荒れ狂うことで知られています。その波の影響によって、長さ180mの船体に亀裂が入り、船尾部分は沈没してしまい、船首部分は油を流しながら漂流した後に、福井県三国町に漂着しました。

荒い波の影響で、油回収船での作業は進まず、油処理剤も波の強さで効果が打ち消されてしまいました。流出した重油の汚染は、1府5県に広がり、重油が漂着した浜辺の近隣では、重油の異臭は生活に支障をきたすほどでした。

流出した重油は、暖房で使用される予定だったC重油です。6,000,000リットル以上という途方もない量の重油が流出したとされ、また、船体には約10,000,000リットルという量の重油を蓄えたまま、水深2,500mという深さの海底に沈没していきました。船体の大きさや水深の深さから、沈没した船体はサルベージできず、5年間に及んで重油が流出し続けたという報告もあります。

日本近海で発生した、最悪のタンカーの事故だったのです。

バイオレメディエーションのきっかけは漁港からの1本の電話

兵庫県美方郡香美町に柴山港があります。柴山ガニで有名なところです。

事故当時、微生物で油汚染を浄化するというバイオレメディエーションはあまり認知されておらず、たまたま知り合いを通じてご連絡をいただきました。漁港の方々にとっては、「何でもよいから、可能性があるのなら試したい」という、藁にもすがる気持ちだったはずです。

当時は、本社が神戸にあったため、すぐさま自動車で丹波を越えて駆け付けました。

さっそく現地調査を行ったところ、海岸は真っ黒で、海面には油膜が浮いていました。海岸に漂着した重油は、岩場にベットリとシート状にへばり付いており、めくって取ることができるぐらい堆積していました。

現地は、風の影響で海洋のゴミが集まってくる地形になっています。もちろん、漂流している重油も集まってきていました。その影響で、浅瀬に生息するナマコは死んでしまい、重油の除去と浄化の必要性を強く感じました。

小規模の油流出事故では、バイオレメディエーションの効果は実証されていましたが、大規模な海洋汚染での効果検証は初めてのことで、資金も必要でした。

そこで、漁業協同組合、大学、水産試験場、保険会社、石油会社、食品会社などに所属される専門家の方々とチームを組んで「ナホトカ号海洋油汚染バイオレメディエーション研究会」を発足しました。兵庫県からは、研究会に対して義援金が支給され、バイオレメディエーションの効果を研究しつつ、研究会メンバーと漁師さんで力を合わせて、重油汚染浄化に取り組みました。

バイオレメディエーションの良さを説得

一般的には、油の流出事故には油処理剤を使用します。しかし、当時の処理剤には強い毒性がありました。漁港の近海に毒性の高い油処理剤を使用することは、環境に対しての影響を考えれば、漁港としては何とか避けたいところです。

そういった中で、環境に対する影響が低いとして選択される浄化方法が「バイオレメディエーション」です。

バイオレメディエーションとは、自然界に生息し、油(汚染物質)を分解する能力を持つ微生物の力を用いて環境を浄化する手法です。その中でも、あらかじめ油や汚染物質を分解することが確認できている微生物を投入する方法を、「バイオオーグメンテーション」といいます。

しかし、当時バイオレメディエーションの認知度は低く、「微生物を撒いても、海洋生物に影響はないのか?」という意見もありました。

弊社のバイオ製剤は、自然界から採取した天然の微生物群で、多くの安全性試験の結果、安全であることが確認されているもので、海洋生物への影響はありません。

研究会では、海岸に漂着した重油を対象に、バイオレメディエーションの効果を実証するための場所の選定やプランを計画しました。漁港の北側にある岩場を、重油分解の実証試験の場所として選びました。

漁港全体の浄化には、漁師さんのご協力をいただき、1月から5月まで続けてこられた人海戦術での重油回収作業を引き続き行いつつ、回収しきれない狭部に入り込んだ重油は、バイオ製剤(テラザイム)の散布で浄化を試みました。また、漁師さんにはバイオ製剤を無償提供し、重油が入り込んで回収しきれない場所があれば、ご自身でバイオ製剤を撒いてもらいました。

バイオレメディエーションの実証試験は6月に開始。漁師さんからは、「冬には海が荒れるので、秋までに実証試験をした方が良い」とのアドバイスをいただきました。地元の方々からいただいた情報やアドバイスは、実証試験に非常に役立ちました。

バイオレメディエーションの実証試験内容

バイオレメディエーションの実証試験では、次のようなことを行い、効果と安全性を調査しました。

  • 流出した重油自体の分解試験
  • 石に付着した流出重油の分解試験
  • 自生している貝への影響試験
  • 水生生物に対する影響試験(ウニの卵を使用した発生試験や、感受性の強いアユなどに対する毒性試験)

石に付着した流出重油の分解試験では、海岸で、重油にまみれた石に、バイオ製剤「テラザイム」を振りかけ、波打ち際に並べました。比較試験として、バイオ製剤がかかっていない同様の石も用意し、バイオ製剤の有効性を確認しました。

写真中央にある白っぽい石は、重油にまみれた石にバイオ製剤を振りかけたものです。「C」の札が付けられていますが、試験では1個体だけでなく、同様の石を複数用意し、すべての石に効果があるかどうかを確認しました。

このようなコンテナをいくつも用意し、波打ち際に並べました。

石に付着した流出重油の分解試験結果

1つ目の写真は、分解試験開始日に撮影したものです。石全体に黒い重油が付着しています。その後、1週間に1回、石全体にバイオ製剤を振りかけ、また波打ち際に戻すという作業を繰り返しました。

2つ目の写真は、3週間経過したときの様子です。3回のバイオ製剤撒布で、石の表面が見え始めました。写真にはありませんが、バイオ製剤を撒布しなかった石は、黒いままでした。

3つ目の写真は、10週間経過したときの様子です。合計10回のバイオ製剤撒布を続けてきました。石の黒い部分はほとんど消え、石の本来の色が戻りました。 夏という暖かい季節でもあり、微生物の活動は活発で、重油まみれの石も、2カ月程度という短期間で浄化できました。

このようなバイオレメディエーションの実証試験は、国内初でした。この実証試験により、国内外のさまざまな学会で研究成果を発表し、それらの論文をまとめ、「バイオレメディエーションによる海洋汚染対策」という報告書を作成することができました。

バイオレメディエーションの有効性を実証

流出した油は、沖で漂っている状態であれば、吸着マットやバキュームで除去した方が、早く回収できます。しかし、護岸や海岸にたどり着き、岩の隙間や砂浜の中に潜り込んだ油は、そう簡単には回収できません。

バイオレメディエーションは、自然環境にやさしい手法であること隙間に入り込んだ油の浄化など、直接回収が難しいような場所においても、有効であることが、この研究会の試験によって実証されました。

関連資料

バイオレメディエーションによる海洋汚染対策

当時、ナホトカ号の重油汚染に対し、バイオレメディエーションの有効性を実証するために、「ナホトカ号海洋油汚染バイオレメディエーション研究会」を立ち上げました。そのときの報告書を、こちらよりダウンロードできます。

バイオ・インテリジェンス

ナホトカ号の油流出事故をバイオレメディエーションで浄化したことが、雑誌「日経バイオテク」第372号(1997年3月24日発行)に掲載されました。当時の記事をこちらよりダウンロードできます。